近年になって改めて注目を浴び始め、広く市場に出回るようになってきた人工ダイヤモンドですが、天然ダイヤモンドとはどのような違いがあるのでしょうか。また、キュービックジルコニアなど、ダイヤモンドに類似した宝石も多くある中、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。今回は、天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンド、そしてキュービックジルコニアとの違いを分かりやすくご紹介します。
人工ダイヤモンドとは?
人工ダイヤモンドは、文字どおり人工的に成分を合成して一定の条件の中で育てられたダイヤモンドです。ラボグロウンダイヤモンドや合成ダイヤモンドとも呼ばれます。 「人工だから手軽な材料で作った類似品でしょう?」と思われるかもしれません。ですが、人工ダイヤモンドは、化学成分、結晶構造、光学的・物理的特性は天然ダイヤモンドとまったく同じであることが化学的にも証明されています。
人工ダイヤモンドの製造方法
人工ダイヤモンドは主に2つの方法で製造されます。
高圧高温法 (HPHT)
天然ダイヤモンドが作られる地中の状態に似せた装置でダイヤモンドの種を育て、人工ダイヤモンドを作る方法です。深い地中のような高温と高圧な環境によってダイヤモンドが結晶になる現象に似せています。結晶ができやすい方法ですが、作れるダイヤモンドのサイズが制限されます。
化学気相成長 (CVD)
条件を整えた真空装置を使うことでダイヤモンドの種を育て、人工ダイヤモンドを作る方法です。一度の作業工程で複数の人工ダイヤモンドを作り出せるため、量産に適していると言われています。大きなダイヤモンドを作ったり、純度を上げたり、利便性が高いことからも、質の高い人工ダイヤモンドを作るスタンダードな方法です。
天然ダイヤモンド、人工ダイヤモンド、キュービックジルコニアの特徴
天然・人工ダイヤモンドの他に、ダイヤモンドと見た目が良く似ている石には「キュービックジルコニア」があります。天然ダイヤモンド、人工ダイヤモンド、キュービックジルコニアのそれぞれの特徴をご紹介します。
天然ダイヤモンド
天然ダイヤモンドは、自然の力により地球内部で長い時間をかけて生み出されたダイヤモンドです。 宝石の中で最も高い屈折率で絶対的な輝きを放つ「美しく強い輝き」が一番の特徴とされています。さらに、自然の産物であることから希少性が高いとされることが多く、投資の対象にもなっています。
人工ダイヤモンド
人工ダイヤモンドは、「合成ダイヤモンド」や「ラボグロウンダイヤモンド」とも呼ばれています。人の手によってダイヤモンドの結晶を促進させたという違いだけで、物質的には天然ダイヤモンドと相違がありません。 数日から数週間という短い期間で生成できるため製造コストを抑えられ、価格は天然ダイヤモンドよりも低く設定されます。 人工ダイヤモンドは、天然ダイヤモンド同様のクオリティでありながらリーズナブルであることが特徴と言えます。
キュービックジルコニア
キュービックジルコニアは、輝きや硬さをダイヤモンドに似せた人工宝石です。耐熱性のセラミックの材料として使われる二酸化ジルコニウムに、酸化カルシウムや酸化マグネシウム、酸化イットリウムなどを混ぜて結晶化させて製造します。見た目はダイヤモンドにそっくりですが、化学成分・内部構成・物理的特性は天然ダイヤモンドや人工ダイヤモンドとは異なります。
例えば、天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンドで突出している「硬さ」を表す、モース硬度という数値は、ダイヤモンドが10に対し、キュービックジルコニアは8~8.5程度と大きな差があります。
また、キュービックジルコニアは大量生産されるため、職人の手によるカットではなく、マシンカット。ダイヤモンドに施される、職人の手によるカットのきめ細やかな輝きとの差は歴然です。
キュービックジルコニアは、色・大きさ・透明度をコントロールでき、大量生産が容易なため、主に装飾用の石として使われます。人工ダイヤモンドよりもさらに手軽な価格が特徴です。 キュービックジルコニアの他にも、ダイヤモンドに似せて製造されたまったく違う成分の人工宝石を総称して模造石と呼びます。模造石は多くの場合、ガラスやアクリル樹脂など安価な原料が使われます。
天然ダイヤモンド、人工ダイヤモンド、キュービックジルコニアはどのように判別する?
では、天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンド、キュービックジルコニアは、どのように判別するのでしょうか。
天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンドの判別方法
先ほどご説明した通り、天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンドは物質的には違いがないため、一般の人が違いを見分けることは難しいですが、GIAなどの専門機関では、天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンドの判別を行うことができます。
数日から数週間で作られる人工ダイヤモンドと、長い年月の中でさまざまな環境変化を経て作られる天然ダイヤモンドでは、結晶が出来上がるまでの過程が大きく異なるため、結晶構造が同じであっても、その構造を作る結晶の形に違いが生じるのです。天然ダイヤモンドの結晶は三角形が8つ組み合わさった八面体であるのに対し、人工ダイヤモンドは製造方法によって正方形が6つ組み合わさった立方体の結晶になります。
天然・人工ダイヤモンドとキュービックジルコニアの見分け方
天然・人工ダイヤモンドの判別は一般の人には難しいものの、ダイヤモンドとキュービックジルコニアなどの模造石との見分けは比較的簡単です。ここで判別のポイントをいくつかご紹介します。
- 重さを比べてみましょう。キュービックジルコニアは、天然・人工ダイヤモンドに比べて密度が高いため、同じ大きさでも重くなります。
- 薄暗いところで輝きを見る 薄暗いところで輝きを見てみましょう。キュービックジルコニアは、虹色に輝きます。そして、明るい環境下ではキラキラと輝きますが、明かりが少ないと輝きも弱くなるのが特徴です。天然・人工ダイヤモンドは光に対して強く鋭く反射するため、薄暗いところでも存在感のある輝きを放ちます。
- 息を吹きかけて曇りを見る 石の表面に息を吹きかけて表面の曇りを見てみましょう。天然・人工ダイヤモンドは息で曇った表面はすぐに透明になります。反対に、キュービックジルコニアは曇りがしばらく残ります。これはそれぞれの熱伝導率の違いによる現象を利用した方法です。
- 水を垂らして、水滴の様子を見てみましょう。天然・人工ダイヤモンドでは丸い水滴ができます。「疎水性」という水を弾く性質により、垂らした水が表面で弾かれて球体になります。それに対し、キュービックジルコニアは疎水性が低いため平たく広がり、水滴にはなりません。
天然ダイヤモンド、人工ダイヤモンド、キュービックジルコニアそれぞれの価格の違い
天然ダイヤモンド、人工ダイヤモンド、キュービックジルコニアの価格は製造過程や判定基準、流通経路などの要因によって異なりますが、一般的には、天然ダイヤモンドの価格を100とした場合、人工ダイヤモンドは30〜60、キュービックジルコニアは0.2〜1と言われています。 つまり、100万円の天然ダイヤモンドと同じグレードの人工ダイヤモンドを購入する場合の価格は30〜60万円、キュービックジルコニアでは2千円〜1万円というイメージです。 それぞれの価格の違いを見ていきましょう。
天然ダイヤモンドの価格
天然ダイヤモンドが世界の限られた場所で採掘され、複雑な加工を施して製品として店頭に登場するまでの時間と労力は計り知れません。そのすべてが天然ダイヤモンドの価値となり、価格に反映されています。 また、人工ダイヤモンドにも同じことが言えますが、ダイヤモンドはそのグレードにより大きく価格が変動します。ダイヤモンドの品質価格基準は、大きさや重量を表す「カラット」、輝きの美しさを決定づける「カット」、石の色を表す「カラー」、透明度を表す「クラリティ」の4Cで決められます。
人工ダイヤモンドの価格
人工ダイヤモンドは天然ダイヤモンドと比べて、ダイヤモンドとしての品質に差異はありません。化学的にも証明されているように、化学成分、結晶構造、光学的・物理的特性は天然ダイヤモンドとまったく同じです。 完成までの時間と労力が大きく短縮され、品質の管理が均一に行われていることが、価格の違いとなって現れています。人工ダイヤモンドは天然ダイヤモンドと同等の品質と言えますが、製造コストの縮小が価格に反映され、天然ダイヤモンドの30〜60%の価格に抑えることができています。
キュービックジルコニアの価格
キュービックジルコニアは製造に使われる成分が天然・人工ダイヤモンドとはまったく異なります。 キュービックジルコニアは安価な原料を使うことではるかにコストを抑えられ、製造過程も少ないため、価格がぐっと下がります。天然ダイヤモンドの0.2〜1%ほどが目安です。
天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンド、環境に優しいのは?
近年、天然ダイヤモンドには、採掘にあたっての環境破壊や児童労働、ダイヤモンド鉱山が紛争の資金源として利用されてしまうなどの倫理的問題点が指摘されるようになってきています。 人工宝石の場合は児童労働や紛争問題と無縁であり、また、人工ダイヤモンド製造にかかる1カラットあたりのエネルギー消費量は、天然ダイヤモンド採掘の約半分といわれています。こういった理由から、エシカルな視点から「あえて人工宝石を選ぶ」という人も増えているのです。
新しい選択肢としての「モアサナイト」って?
ここまで、天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンド、キュービックジルコニアとの違いを紹介してきましたが、これらに似た新たな人工宝石として人気を集め始めているのが、「モアサナイト」です。
「モアサナイト」は、ダイヤモンドと非常に似ていますが、ダイヤモンドとは別物で、「炭化ケイ素」という物質が結晶化したものです。 もともとは宇宙から降ってきた隕石の中から発見された宝石ですが、地球上ではめったに産出されないものでした。 1998年ごろ、この宝石を科学的に製造する方法が編み出されて以降、ダイヤモンドと近い特性を持った新しい人工宝石として市場に出回り始め、今に至ります。
モアサナイトは、宝石のきらめきを表す「ファイア」において、ダイヤモンドのなんと2.5 倍の数値を誇ります。また、硬さを表すモース硬度も9.5と、宝石の中ではダイヤモンドに次ぐ高さ。価格も天然ダイヤモンドの10%程度で、価格帯で言うと、先ほど紹介した人工ダイヤモンドとキュービックジルコニアの中間ほどにあたります。 モアサナイトの特徴はそれだけではありません。
製造にかかる1カラットあたりのエネルギー消費量も、人工ダイヤモンドのなんと1%以下。ダイヤモンドに代わるエシカルな選択肢として、新たに選ばれることが多くなってきています。